ユングに出会ってから見た「銀河鉄道の夜」
この夏どうしても見たい映画があった。
1980年代の映画アニメ、「銀河鉄道の夜」だ。
当時小学生だった私は、父の勧めで見ることになる。当時は怖くて途中で見るのをやめたが、その映画の不思議さだけが感覚として残っている。
そんな映画をまた見たい!と思ったのには訳がある。
今私の中でドハマリしているユング心理学。
その中で意味のある偶然の一致ということを大切にする考えがある。
現代人は全てにおいて原因と結果で説明しようとするが、それでは答えが出ないことが多々ある。因果律では説明できないということだ。
この意味のある偶然の一致、シンクロニシティ(共時性)と言うが、起きている事柄(点)が違う事柄(点)と繋がり、星座のように物語としてコンステレーション(布置)していくというような考えである。
この夏、銀河鉄道の夜に数日間の間に3回出会った。
ひとつは、ユング心理学を検索している中から、銀河鉄道の夜に心理療法の終結像を重ねた北川明さんの論文「心理療法の終結とは」に出会ったこと。
二つめは、Twitterから犬山紙子さんを偶然フォローして、ツイートを遡って見ていると、なんと一番好きな映画は「銀河鉄道の夜」と言う。
三つめは、私の妻が今見ている漫画「偽装不倫」のモチーフが銀河鉄道の夜だと言う。
この銀河鉄道の夜に立て続けに3回も出会ったことが、どうしてもこの夏「銀河鉄道の夜」を見ないといけない!と思い立った理由である。
このコンステレーションを以前だったら、意味を感じずに見過ごしていただろう。
私が最近注目している若手ユング派の心理療法家である大塚紳一郎さんがTwitterでユングのモラルについて語っていた。私もモラルを大事にしないといけない!と思い、すぐにアマゾンで長編映画アニメ「銀河鉄道の夜」ブルーレイ版を注文したのだ。
そのツイートは下記。
長々と前置きをしたが、そろそろ映画を見て感じたことをツラツラと書こうと思う。
ジョバンニはいじめられているのだろう、その中で唯一味方だったカンパネルラ。カンパネルラとの別れは、ジョバンニにとって耐え難いほど辛いものであろう。ただ、ジョバンニはカンパネルラと一緒に黄泉の世界に行くところまで旅をした。そして今もあの銀河のむこうにカンパネルラがいることをわかっている。だからもう怖くない。そう言えるのだろう。ジョバンニの心のなかにカンパネルラが生きている。
私の父の話を思い出した。
父は30代の頃に無二の親友を亡くしている。最初は辛くて辛くて耐え難かったと言っていた。ただある時にその友人が今も生き生きと自分の心の中で生きていることを見つけた。そこから少し心が辛さから乗り越えようとできたと言っていた。
北川明さんの見事な論文ではとてもわかり易く解説してあるが、この同行二人の心像がまさに心理療法の終結とシンクロするのである。
ここで私の夢の話をしよう。
最近見た夢の中でも一番印象に残っている夢。
(夢1)
私はベッドに横たわっている、どうやら病院で手術をしているようだ。それも開腹手術。その手術の執刀をしているのが、なぜか私の昔通っていた高校の数学教師で女性のT先生だ。私は部分麻酔なのか、開腹手術している様子をジッと見ている。最後の縫合が終わって。病室にもどる。
そうしてしばらくしていると縫合した腹の糸が開きそうになってきている。これはイカンと思い、T先生のところに行く、、、というところで目が覚めた。
あまりにも印象に残った夢だったので、続きが見たいと思っていた。ユング心理学ではアクティブイマジネーションという技法がある。違う日の寝る前の静かな時間に、真っ暗な部屋で目を閉じて、夢1の情景を思い浮かべた。以下はアクティブイマジネーションで得た夢のつづきである。
(夢2)
T先生の部屋に入って、「先生大変です!縫合した腹が開きそうになってます!」と言うと、先生は優しくしてくれて、横になって縫合してくれた。先生は、「また大変だったらいつでもいらっしゃい」と言ったので、「いつでも良いんですか?」と問うと、「いつでも困ったときはいらっしゃい」と言われたので、すごく安心した。
このアクティブイマジネーションが終わったとき、恍惚の感覚だった。
そして自分の中での不安が、幼少期に母が機嫌の良いときと悪い時で受け入れられたり拒否されたりということがとても辛かったことを想起した。そして、もうT先生が自分の心の中にいるから大丈夫だと、スッと腑に落ち、とても安心した。ユング心理学でいうところのアニマに出会ったのだ。(和解したとも言える)
ここでも心理療法の終結像である同行二人の感覚である。T先生がいつもそばにいてくれているという感覚が不思議とある。
T先生は、私が多感な時に初めて母親以外の女性で私を認めてくれて、支えてくれたとても印象に残っている先生だ。その先生が心のなかでいつでも困った時に助けてくれる。そんな思いをしている。
話を銀河鉄道の夜にもどそう。
ジョバンニはカンパネルラが銀河のむこうにいることを知っている。一緒にそこまで旅したんだ!ジョバンニはもうひとりではない。銀河のむこうのカンパネルラと共に生きているんだ。
近しい人の死を乗り越えようとする時に、銀河鉄道の夜はとても力強い物語として生きてくる。宮沢賢治が最愛の妹を亡くして作った作品であるということが、この物語をより一層感動的に感じる要因なのかもしれない。
現代人の悩みは、自分の物語がうまく作れずにいることが大きな要因のような気がする。そんな時に、ユング心理学の、夢を無意識からの大事なメッセージと捉えることや、点と点をつなぐコンステレーション、シンクロニシティなどの考えを上手く利用して、自分だけの物語を作っていければ良いのではないかと思うのだ。
私の心の探求はまだまだつづく。